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#13 LayerX 福島・松本氏と振り返る2021年スタートアップ総括:資金調達、SaaS、Web3の現在地と未来

#13 LayerX 福島・松本氏と振り返る2021年スタートアップ総括:資金調達、SaaS、Web3の現在地と未来の画像
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「スタートアップ オフレコ対談」は、XTech Venturesの代表手嶋とゲストの方をお呼びして対談する番組です。今回はバックオフィスの業務効率化サービス「バクラク」を展開する株式会社LayerXの福島さん、松本さんと2021年のスタートアップ業界について振り返りました。


日本のスタートアップシーンを先頭を走る彼らがどのような視点で様々な変化を感じていたのか、またブロックチェーン技術の実用化に取り組んできたからこそ現在のWeb3の盛り上がりをどう見ているのかを理解できる内容になっております。

スピーカー

・福島 良典氏(@fukkyy
株式会社LayerX代表取締役CEO

・松本 勇気氏(@y_matsuwitter
株式会社LayerX代表取締役CTO

・手嶋 浩己(@tessy11
XTech Ventures代表パートナー

目次

# 「資金調達量が異常だった」2021年のスタートアップシーン
#  SaaS評価の変容と、AIからFinTechへの「リブランディング」
# 創薬DXの衝撃と、見えざるプロセスの変革
# FinTech第二章の狼煙と、Web3ブームへの冷静な視点
# Web3ブームの真相、「儲かる」話の裏にある本質
# 注目スタートアップの比較軸と、採用市場の変化
# 2021年、一番びっくりしたニュースとは?
# 2022年の業界予測、「揺り戻し」の先にあるもの
# LayerXの採用について

※記事の内容は2021年12月時点のものです。

「資金調達量が異常だった」2021年のスタートアップシーン

手嶋:XTech Venturesのスタートアップオフレコ対談ということで、今日は僕も一緒にやらせてもらっているLayerXの福島さんと松本さんに来ていただいて、2021年のスタートアップ周りを振り返る形で話していきたいと思います。

その前に、直前に2021年のLayerXを振り返るコンテンツを収録しました。それは「LayerX Now」というチャンネルで配信されていますので、検索すると出てきます。これを聞いている方はLayerXの2021年がすごく気になると思うので、そちらもぜひ姉妹コンテンツとして聞いてほしいと思います。

では、福島さんと松本さん、自己紹介は割愛させていただき、いきなり2021年の話に入りたいと思います。LayerXの話は他でしたので、LayerX以外の話をしたいのですが、松本さん、日本のスタートアップにフォーカスすると、2021年はどんな事業や会社、市場に注目されましたか?

松本:1つは、事業というよりも資金調達量が異常な年だったという印象が強いです。日本国内でも2桁億円の調達が常識のレベルになり、会社によっては100億円を超えるケースも出てきました。また、その手段も高度化してきた気がします。Fivotの新しい証券化商品などは画期的だと思います。有効な調達手段の多様化と、調達量自体の拡大が、採用市場などさまざまな市場に影響を与え、変化があちこちで起きた年だったと思います。

もう1つは、個人的に技術が大好きなので、みんなが「Deep Tech」と呼んでいる領域に注目しました。素材、宇宙、VRなどの分野がしっかりと調達して大きくなろうとしている年だったという印象です。この2つが個人的に見ていてワクワクした年でした。

手嶋:資金調達に関しては、もうそれが普通になってきた感じですね。

松本:もう教科書でもあるのかというレベルで、みんなどんどん調達して動いていますからね。今年は少しびっくりしました。

手嶋:その観点でいくと、LayerXの経営もやらせてもらっているのでわかるのですが、LayerXも特に資金調達を企画しているわけではないものの、まだアーリーフェーズのLayerXですら、海外の投資家から問い合わせがあります。

福島さん、笑っちゃうような話もありますよね。どこで見つけてくるのかというレベルで連絡が来ます。数年前の感覚だと考えられないことですね。

福島:考えられないですね。今まで寝ずに会いに行かないと会えない人たちが、勝手に連絡してくる時代になりました。

手嶋:こちらから行かなくても、あちらがどこからか見つけてきて、話そうという感じですね。日本のスタートアップにとってはすごくプラスですよね。福島さんは今年、周りの知り合いの話でもいいのですが、どういうところに注目されましたか?

SaaS評価の変容と、AIからFinTechへの「リブランディング」

福島:継続しているトレンドがずっと伸びているという感覚でした。資金調達の桁が変わったことや、特に上場マーケットとSaaSの評価について、海外機関投資家が入ってきて、いわゆるストック型のNRRがプラスで、どんどんアカウントがプラスになってくるビジネスの評価のされ方が大きく変わりました。

覚えているのは、2021年の決算予想大会で、手嶋さんたちとそれぞれが注目している会社を持ち寄ったときのことです。

手嶋:シアターブレインズの話ですね。ラクスなどが1,000億円から7,000億円くらいになったという。6,000億円も増えましたね、2年ほどで。

福島:僕はインフォマートを持っていて、インフォマートもそれから3〜4倍になっています。ある種の老舗企業も、SaaS企業としてリブランディングしたということですね。

また、LayerXの話になりますが、2020年にピボットして、2021年はそれを立ち上げる年でした。似たような動きが、AIの上場している会社などにも見られました。プロダクト型というよりコンサル型寄りの会社が、プリファードネットワークス(以下、PFN)などのように合弁やプロダクトを作る志向に変わった1年だったと思います。

手嶋:PFNの規模であれをやるのは相当大変だと思いますが、成功したらすごいですね。あのモデルで売上80億円ほどの…

福島:それもすさまじいと思います。今のモデルは主にコンサル的なモデルであれだけの売上があるということですからね。そうしたAI企業がSaaSと名乗り、SaaS企業がFinTechとリブランディングする道筋が、今年起こり始めていて、来年度はメジャーになりそうな感じがします。

手嶋:スタートアップではない普通の企業が、自分たちの売上のことをMRRと呼んだりしています。エンジェル投資はやっていませんが、事業の相談を受けるときに一番多かったのが、「うちはストックビジネスです」と言われて、「いや、それは売上ですよね」と返すケースでした。それほど浸透した1年だったということですね。

悪気がなく、売上のことをARRと勘違いしているほど浸透したということです。いろいろなところで、勝つための方程式みたいなものができてきました。

福島:こういうふうに評価されるという理解が広まり、昔のITベンチャーのやんちゃさみたいなものは減ってきた気がします。今年はきちんと教科書通りにやれる人たちの戦いになっている気がしました。

手嶋:2021年も末になって、さすがにそんな方程式はクリアには存在しないというか、来年以降は各社各様の差がつきそうな感じですね。資本市場からの評価という点では。

福島:投資家側もリテラシーが上がってきていますね。ARRと言っても結局は粗利で見なければならないとか、チャーンと言っても、その産業構造や顧客セグメントによってOKなチャーンのレベルが違うということを、投資家側も学んだと思います。SaaS会社で同じような数字に見えても、そんなに伸びない会社の特徴を、投資家の学習が進んでいると思います。

創薬DXの衝撃と、見えざるプロセスの変革

手嶋: 資本市場に学習が行きわたって、SaaSを一言で言うと「SaaS」という業態が存在しないということですよね。一つ一つの事業や業態って違うということなのかなと思います。他に具体的なニュースや人、プロダクトで気になったものはありますか?

福島: ワクチンがめちゃくちゃすごいなって思いました。

手嶋: モデルナですか?

福島: モデルナです。これ、NewsPicks にも書いてましたよね。あと、ポッドキャストで「ワクチン開発戦争」みたいなタイトルのものがあって、すごく長いんですけど、最初の方の秘話を聞くだけでも、めちゃくちゃ面白かったです。まさにDXって感じで、すごいことが起こってるなと思いました。

 特に創薬プロセスのデジタル化のところで、今年はかなり調達が増えてた気がしています。僕が興味を持っただけかもしれないですけど、「そんな会社が調達できるんだ」という感覚だったんですが、あのポッドキャストを聞いて、すごくわかりました。もうソフトウェアカンパニーなんですよね。調達しなくてもめちゃくちゃ利益を出してる会社の記事も読みました。創薬DXのところは、実はみんな見落としてたけど、すごい変化が起こってたんじゃないかなと思います。ワクチンを作ったこと自体もすごいんですが、その下に潜んでいる創薬プロセスの変革がすごいという話ですよね。

手嶋: すごいですね。どんなことがあるんですか?

福島: 人間が検査するところをどう自動化するかを一つ一つデジタル化するだけで、創薬プロセスが一週間に数本しかできなかったものが、数時間で処理できるようになったりしています。治験に行くまでの前段階で、どの物質が効くのかといったところのシミュレーションは、本当にすごい進化をしていて、数時間ですぐに試して、「これが良さそうかどうか」という結果が出るみたいなことが起こっています。受け売りレベルの知識なんですけど。

手嶋: 福島さんは昔、ニュースの推薦エンジンやアドアルゴリズムの改善をやってましたが、全く同じ話をしてるんですよね。

福島:24時間でABテストして、1時間後には結果が出て、それがもう新しいアルゴリズムに反映されるというレベルの変革が起こっていて、すごいなと思います。

手嶋: 創薬の会社でいうと、Insilicoですかね?アメリカのInsilicoというところが、確か今年何百億か調達してました。日本の資金調達環境と掛け合わせると、日本でもそういうのがバンバン出てくるようになるんですかね。

福島: ちょこちょこ見るようになりましたよ。そういえば何社かお会いしましたね。

手嶋: 正直、今までのスタートアップの感覚で言うと、そこってDeep Tech VCが出資するかもね、ぐらいでしたが、普通のVCがそういうところに投資するようになった。すごい変化です。ANRIやインキュベイトファンドなども結構積極的にやってますもんね。

FinTech第二章の狼煙と、Web3ブームへの冷静な視点

手嶋:松本さん、何か気になったことはありました?具体的な人やニュース、会社で。

松本: フィンテックについて、来年は結構面白い年だなと思ってるんですけど、その狼煙みたいな出来事がいっぱい起きてたなと思ってます。この前、Nubankが上場したんですよね。新しい銀行で、しかも確か創業は南米の方ですよね。ブラジルでしたっけ。

手嶋: ブラジル発のスタートアップで、オンラインで5兆円とか、結構な規模ですね。僕がブロックチェーンやってた時に、「結局これは銀行やらなあかん」みたいなことをよく福島さんに話したんですけど、まさにそのチャレンジャーバンクです。

それ以外にも、新しい銀行の形みたいなことを言い出す会社が増えていて、今はまさに上場して実を結び始めたタイミングなんだなというのは、結構象徴的かなって思ってます。

日本国内だったら、Paidyさんの買収ですよね。がっちり3,000億円で。

松本: Paidyの買収でいくと、僕はやっぱり買収された後の方が大事だと思っています。社会的な意味で、創業者のエグジットではない観点でいうと、5年後ぐらいにどういう成功をするのか、どうせなら成功してほしいという成功の買収にしてほしいということで、PayPalとの間でどういうビジネスを作り上げていくのかに興味がありますね。

手嶋: そういう意味で、来年以降がフィンテックの面白い年だなと思ってるんですよ。今年いろんなものが花開いて、その次の準備が始まるタイミングだと思います。

松本: 来年で僕がすごく注目しているのは、今年の話じゃないんですが、来年PayPayとLINE Payがいよいよ統合されるからです。そこからZホールディングスは明確にフィンテック事業の方針を打ち出してくると思うんですよね。

そこで給与払いなども多分解決されてくるから、その後は一気に変わってくるだろうなと思います。今の消費者向けのフィンテック、そこは注目してますね。

手嶋: 三井物産デジタル・アセットマネジメントでも狙っていきたいところですね。

松本: そうですね、そこのマネーをということですよね。ただ、PayPayをやるわけじゃなくて、ペイメントに関しては、市場のスタートタイミングは今じゃないよね、もう今始めても負けるよねというときなので、どちらかというと出来上がったエコシステムの上で第2ラウンドが開催されるのが、来年以降なんだろうなと思ってます。

手嶋: そういう意味だと、堀井さんや沖田さんといった実力者がゼロからフィンテックカンパニーを作ろうとしてるから、ああいうのも、僕らはちょっとどういうコンディションなのか正確には分からないけど、それぞれの道でうまくいってほしいなというのはありますよね。そっちの方が面白くなってくるというか、フィンテック業界という感覚はありますよね。

Web3ブームの真相、「儲かる」話の裏にある本質

手嶋:お2人に聞いておかなきゃいけないのは、元ブロックチェーン野郎のお2人なので(笑)、最近なんで突然Web3とかって話が出てくるんですか?さっきも木下さんが「もう僕はWeb3の投資に注力します」とか宣言を突然されてて、びっくりしたんですけど、なんかきっかけあったんですか?この1ヶ月で突然Web3って。

福島:そうですね。NFTが結構きっかけだったと思います。あと、昔からですけど、クリプトファンドのパフォーマンスがめちゃくちゃすごいことになってて、a16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)とかセコイアが独立したり、クリス・ディクソンとかが書いた記事が日本語翻訳されて流通し始めてる感じがしますね。

手嶋:じゃあ国光さんが言い続けた蓄積で爆発しているわけではないんですね。

福島:まあ、そういうのもちょっとわからないですけど。単純にこの1年、仮想通貨マーケットの価格がめっちゃ上がったじゃないですか。シンプルにお金の流れとして、ビットコインが上がって、イーサリアムが上がって、他の通貨が上がる。めっちゃ儲かったんでしょうね。だから注目されてるんだと思います。要するに、ビットコインとかイーサリアム持ってた人は儲かったし、その儲かった資金がNFTとかにも流入している。だいたい資金流入は最初ビットコインで起こって、次にイーサリアム、その次に草コインで起こるんですよ。で、その草コインがNFTに変わってる感じですね、今。

松本:そんな感じがしますね。

福島:NFTの中でも、アートが夏頃に流行ってると思いきや、なんとなくもうそれは下火で、ちょっと違うものに移ってるのかなという感じです。

松本:FacebookがMetaに変わって「メタバース」って言い出したのが、下火になりかけた業界をさらに燃え上がらせた1つの要因だと思います。FacebookはMetaという会社に変わってメタバースをやるって言って、別にクリプトについて一言も言ってないんですけど、周辺の人達が「メタバースが来るってことは、デジタルアイテム、つまりNFT、つまりクリプトだ!」みたいな感じで盛り上がり始めた。この秋、冬ぐらいに再度盛り上がり始めたという感じですね。

手嶋:僕らは結構見てたじゃないですか。その違和感として、Web3ってそういう話じゃないですよね。

松本:そうですね。どちらかというと、ビッグテックがデータを独占してるとか、ユーザーとプラットフォーマーの利益配分がおかしいとか、プライバシー情報の権利を侵害してるんじゃないかという問題から生まれたのがWeb3なのに、いつの間にか話がすり替わって、「儲かる儲からない」とか「NFTをすればいいのか」とか、そういう話になってしまって、ちょっと危険だなと思ってます。正直。

福島:一般論からすると、これは長続きしないですよね。この話題になってる意味でのWeb3でいくと、半年後ぐらいにはそんなに話されてないと思います。儲かる儲からないだけの話を皆さんしてますからね。

手嶋:一部の本当に真剣にやってるプレーヤーがいて、そういう人たちはやっぱりずっとリスペクトしてるんですけど、もうちょっと違う角度で、違う領域から大成功者が現れるんじゃないかなって、個人的には思っています。

松本さんはどうですか?Web3ムーブメント、にわかに年末になってきましたけど。

松本:Twitterにこの前書いたんですけど、最近そういう質問をすごく受けるんですね。面倒くさいんで、もう答えを書いておこうと思って書いたんですけど。2018年とか、一番研究していた頃の僕らが感じていた課題感と、今のブロックチェーンの状況って、あんまり変わってないんですよ。ロールアップとか、いろんな技術が登場して多少は改善しているんですけど、根本解決するような変化は何も起きてない。

なのに、投機的というか「儲けようぜ」のムーブメントで盛り上がってるのが今なんだろうなと思っていて。事業として何か作れるかもしれないけど、それをやって楽しいかというのは、自分の個人の思いとしてあるので、今は静観するという感じです。

ただ、DeFi(Decentralized Finance)はちょっと面白いんですよ。あそこで生まれてる仕組みはちょっと面白いと思っていて、あれがどういうふうに進んでいくのかは、丁寧に見たいなと思っています。

福島:ポジティブな面を言った方がいいと思うので、Web3はオープンソース2.0だと思ってるんです。オープンソース的な活動でしか生まれないようなソフトウェアってあると思うんですね。それを今みたいに無理やり株式会社化して、例えばMongoDBとかGitLabとかありますけど、多分今の時代に生まれるGitLabを作りたいみたいな人って、Web3的な作り方をすると思うんですよ。DAOで組織運営してみたいな。

そういうところから、未来のLayerXとか、未来のGitHubとか、未来のMongoDBみたいなものが生まれて、本当にそこのインフラが普通の株式会社とかが提供するよりも本当にいいものが提供される可能性があるなと思ってて、そこはすごいポジティブというか面白いなと思って、ずっと注目してました。

ビットコインとかイーサリアムとかすごいじゃないですか。で、それ以上の発明がまだ一度も起きてないと思ってるんですけど。だからWeb3とか言ってないで、ビットコイン、イーサリアム買っとけばいいじゃんって、個人的には思ってるんですけど、お金儲けしたい人だったら。

ファンドが盛り上がってるのは、「株式会社インターネット」ってあったら投資したくないですか?っていう話なんです。「株式会社インターネット」は、その上にGoogleとかFacebookとかいっぱい載っていて、ネットワークがどんどん成長していってる。けど、株式会社インターネットは作れないですよね。そこが、Web3の本質だと思うんですよ。

そこに初期に投資した人って、多少ネズミ講的な仕組みで—ネズミ講っていうとちょっとあれですけど—初期にリスクを取った時の値上がりがすごいっていうのは、ビットコインとかイーサリアムで証明されてるんで、だからファンドが注目している。

で、逆に株式会社が引いてるのは、むしろWeb3になればなるほど、株式会社が儲からなくなると。そういう構造のものをWeb3で作ろうとしているんで、別にやらなくていいと思ってるんですよね。やるなら違う形でやればいいって思ってる。

今の盛り上がりは短期的だと思います。でも、本物の成功者はやっぱり出てくると思いますね。Web3の力で。そこはもう、僕らの知らない世界のところから生まれてくる気がします。

手嶋:違う価値観の人たちが、違う価値観で全く別のものを作っていくということですね。なるほど、わかりました。ありがとうございます。

注目スタートアップの比較軸と、採用市場の変化

手嶋: LayerXもそうだと思いますが、新しい注目スタートアップが少しはっきりしてきた1年だったかなと思います。LayerXは10XやCADDiなどと比べられることが増えてきた感じですか?

福島: そうですね。CADDi、Ubieなど、最近転職しようという人が比較検討することが増えています。一見やってることはバラバラなのに、なぜ比較されるようになったんですかね。

松本: すごく抽象的なところで言うと、「ソフトウェアを使って大きな産業を変えよう」という文脈で比較されていると思います。CADDiなら製造業、10Xさんなら小売、Ubieさんなら医療、僕らなら金融という具合に。

また、単純にイケてるスタートアップという情報が増えたこともあります。正直、会社の文化もかなり似通っているんですよね。会社のやってる事業よりも、一緒に働く人や会社の文化で選ぶ人が増えているのかなと思います。

手嶋: 採用面では、本当にみんな選びたい放題の時代で、人材が足りません。どちらかというと、私たち会社が選ばれる側です。そうすると、うちと比べられそうなところは、だいたいみんな受けるんでしょうね。

3、4年前の採用では、だいたいの候補者は必ずメルカリも受けている、というパラダイムがちょっと変わっただけなんだろうなという気がします。

2021年、一番びっくりしたニュースとは?

手嶋: 今年一番びっくりしたニュースって何ですか?

福島: 僕はHIKKYですね。社長の名越さんと仲良しなんですが、HIKKYが今年65億円調達したんですよ。NTTドコモからです。

松本: あれは応援してるという意味でも、すごいサプライズでしたね。

手嶋: 僕もびっくりしました。松本さんは付き合いが古いんですか?

松本: 前職時代からの付き合いです。知らない方にお伝えしておくと、多分世界で一番大きなVRイベントをやってるんですよね。VR空間でプラットフォームを問わず、毎回いろんなプラットフォームを使って、コミケや音楽系のイベントを開いて、仮想空間でいろんな人が集まるというイベントです。

スポンサーもついて、事業としてもきちんと運営されていると思うんですが、ここまでの評価額がつくんだということに、ちょっとびっくりしました。VRをやってた人たちもみんな驚いてますよね。ある種、嫉妬も含めてだと思いますが。

Oculus Rift DK2くらいからずっと自分でも買って研究して、まだ遠いなと思っているところで、こんな調達がありえるんだというのは、ちょっとびっくりかつ応援したいなという、今年のすごいポジティブなサプライズでした。

福島: 僕は最近のニュースですが、SmartHRの宮田さんの件ですね。社長を降りて新規事業に集中するという。宮田さんって大成功者なので、皆さん忘れてると思うんですが、まだ上場してないんですよね。あの規模の会社で、創業者が上場前に新規事業に集中しますって、怖いな、と。僕らみたいなスタートアップの立場からすると、すごい決断だなということで、めちゃくちゃびっくりしました。

手嶋: 怖いなというのは、宮田さんが何やるんだろうという怖さがあって、あらゆるスタートアップは警戒すべきだと?

福島: 公開されている情報だと、「SaaS×FinTech」ということを言っているのと、「スタートアップのためになることをやる」と。大企業が顧客じゃないんだなということが、明確にわかることを言ってるなという感じです。

今はスタートアップで、直接の競合よりも、採用やアテンション、調達のアテンションも含めて、そういうのを取り合っている中で、ああいう人が新規事業に飛び込んでくるというのは、すごい時代だなと思いますね。ジャック・ドーシーやイーロン・マスクみたいな感じです。

手嶋: 後任の方も創業期に入ったエンジニアの人で、1人目のエンジニアで入ったという新しさを感じますね。

松本: シンパシーを感じました。お二人ともエンジニア出身なので、自分の成長のプロセスと照らし合わせてみたりとか。エンジニアリングの重要性というものが、これだけ浸透してきてるんだなということで、僕はCTOとして誇らしく、嬉しい出来事です。

手嶋: 宮田さんが社長を変わりますと言った時、多分ほとんどの人は、別の方が社長になるのかなと思ったと思うんです。でも、CFOの方のポッドキャストも聞いたんですが、相当マネージメント力がありそうで、社長にふさわしい方だなと。失礼ながら、こんなすごい人いるんだという感じで聞いてました。

松本: 僕もポッドキャストを聞きましたが、学習能力と自分自身を変化させる力がすごく高い人でした。役割が変わったときに、徹底的に学習して、自分を変えられる人という感じで、すごいなと思いました。

2022年の業界予測、「揺り戻し」の先にあるもの

手嶋: 来年の業界予測みたいなのはありますか?

松本: フィンテックが第二章みたいな年だと思っています。ペイメントの手段がこれだけ浸透し始めて、給与払い込みも始まって、抱える資産が増えていって、それを運用しなきゃいけないとなると、「エンベデッドファイナンス」という概念がきちんとワークし始めるようになる。

僕らは「SaaS×FinTech」と言ってますが、お金が流れるところを扱うすべてはフィンテックに向かっていこうというムーブメントを、多分福島さんが作っていくんだろうなと思っています。それが国内では結構、みんな目指し始めているような気がしています。

僕らがやってるフィンテックの事業、三井物産デジタル・アセットマネジメントでも、これまで供給されていないクラスのアセットをどんどん提供していける、国内唯一のプレーヤーになっていくということを徹底したいなと思います。

福島: 来年は揺り戻しの1年になるんじゃないかなと思っています。資金調達や上場マーケットも強気だったんですが、いろんな反省、投資家側の反省も含めて、結構巻き戻しがあるんじゃないかなと。

ただ、そういう時って、本物の会社が生まれる時でもあるんです。みんなバブルバブルというかもしれないですが、日本のGDP比におけるVC投資額で見ると、全然バブってないんです。今むしろ少ないぐらいなので、調整されながらも資金供給量が増えていくんだろうなと。本物の会社にバリエーションがついて、こういう投資はダメだったねというところにはつかなくなるような、そういう淘汰の1年になりそうだなと。僕らは淘汰されないように、ちょっと緊張感を持ってやりたいなと思います。

あと、AI企業がSaaSにリブランディングし、SaaS企業がFinTechにリブランディングする1年になると思います。SaaS企業がFinTechにリブランディングする理由は、FinTech第二章が始まって、その主戦場が、サブスク型のクラウドで提供するソフトウェアではなく、お金の流れや、うちの場合はデータの流れですよね。

そういった流れているものを、ユーザー体験に変える会社をSaaSと呼ぶようになる。データの流れをうまく捉えて、アプリケーションに変えるのがうちらのSaaSだと思いますし、お金の流れをうまく捉えて、サービスに変えていくのが「SaaS×FinTech」みたいな感じです。

アメリカだとVertical SaaSとか、AI SaaSとか、データの流れとお金の流れをいかに着地するかみたいな方向性になってるので、日本でも待ったなしにその方向性が進みそうだなと。BASEやメルカリがSaaSって呼ばれるようになるとか。toCかBtoBも関係ないんですよね。最先端といったら、やっぱりメルカリやBASEだよなと思います。

手嶋: 2021年末の福島さんのものすごくメタ化された、抽象度の高い話を聞いて、多分ピンとくる視聴者の人はあまりいないかもしれません。僕は普段からずっと話しているから文脈が理解できてますが、2年後にもう一回聞いてほしいですね。

「SaaS×FinTech」って何それ、「SaaS」と「FinTech」は違うじゃんって多分思ってる人は大半だと思うので、どういう世の中になってるか、ちょっと聞いてほしいなという感じですね。

LayerXの採用について

手嶋: 最後に、LayerXの宣伝をしちゃってください。

松本: 今LayerX、特にSaaSの事業部は全方位採用なので、特にプロダクトマネージメントをやっていきたいという方や、エンジニアリングマネージャー、テックリード、普通にバックエンドエンジニアの方も。

これまでの実績で、四半期ベースで1個プロダクトが出てるんですよね。多分これからもそんなペースでものが出ていくので、事業部として活躍するポジションがめちゃくちゃあります。そこで活躍したいという方は、ぜひうちの採用サイトを見て、ジョブディスクリプションがいろんなもの並んでるので、これどうだろうというのがあったら、一回Meetyで話したいなというのが宣伝になります。

手嶋: 1個質問したいんですが、松本さん、やっぱりLayerXだと東大出てメガベンチャーでリードエンジニアやってないと入れないですか?

松本: いや、もう最近の多様化は著しいです。

福島: 大学は東大の人って、多分そんな全体の比率でもいないんじゃないかな。昔は8割東大とかだったんで、僕は少数派でしたからね。でも大学名とかでは見てないし、本当にいろんな人がいますよね。

例えばゴリゴリの野生のセールス上がりみたいな、通信系の会社で営業してましたという人もいますし、逆にいろんなサイズの会社でカスタマーサクセスという単語ができる前からカスタマーサクセスの仕事をやってて、気づいたら自分のやってた仕事はカスタマーサクセスだったんだという、LayerXが3社目みたいな人もいたりとか、結構多様ですよね。

エンジニアも、メガベンチャーのシニアエンジニアみたいな人だけかって言われると、全然そんなことなくて。ソニーの新規事業をやってたエンジニアが入って、ソニーからベンチャーってキャリアチェンジだと思うんですが、大活躍したりとか。フリーランスやってたけど、組織で働きたいのでフリーランスやめてこうやってますとか、小さいベンチャーの元CTOが転職してきたり、いろんなパターンありますよね。社会人経験がそんなになくてもポテンシャルでとってもらいますし、当然女性も活躍できる場です。

松本: 今、新卒社員の内定者の中では男女比率1:1ぐらいですね。

福島: 一対一まで行ってる会社ってないんじゃないですか。大きな変化ですよね。

手嶋: 分かりました。ありがとうございます。いろんな人が来てくださいということですね。詳しくはLayerXの採用サイトがあるので、そこで見ていただければと思います。これを聞いてくれてる人はスタートアップに興味があるとか、スタートアップ業界に従事している人だと思うので、また一緒にエコシステムや、いろいろ学び合ったりするところがあるスタートアップ業界で、またいい1年を一緒に来年できればなと思ってます。

福島さんと松本さん、ありがとうございました。

福島・松本: ありがとうございました。



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