#24 創業期の苦悩とプロダクト開発、そして「巻き込み力」の秘密 ー RABO 伊豫愉芸子氏
「スタートアップ オフレコ対談」は、XTech Venturesの代表手嶋とゲストの方をお呼びして対談する番組です。今回は飼い猫の行動やコンディションを自動的に解析する猫専用の首輪型デバイス「Catlog(キャトログ)」などを提供する株式会社RABO代表取締役の伊豫愉芸子さんに登場いただきました。
前編では泥臭く情報収集に駆け回った創業期から、初期プロダクトリリースまでの道のり、そしてRABO社の強みの根底にある伊豫さんの高い巻き込み力についてお伺いしています。
<スピーカー>
・伊豫 愉芸子 (@oyuki_cat)
株式会社RABO 代表取締役
・手嶋 浩己(@tessy11)
XTech Ventures代表パートナー
<目次>
・「RABO」に込めた「尻尾」と「研究(Labo)」の二重の意味
・構想から半年で「これは行ける」と確信
・「やるか、やらないかじゃない。やるんだ」起業の覚悟
・登記時は「概念図」だけ。ゼロからのチームビルディング
・粘土で試作、データ収集。多忙を極めた1年半
・リリース後に直面した「猫の癖」という壁
・「地の果てまで追いかける」採用力
・ハードウェアの内製化へ。さらなる体制強化
「RABO」に込めた「尻尾」と「研究(Labo)」の二重の意味
手嶋:「スタートアップオフレコ対談」ですが、最近よく「聴いてます」という声もいただくようになってきました。今回は、大型調達を発表した直後の株式会社RABO(ラボ)、代表取締役の伊豫愉芸子(いよ ゆきこ)さんをゲストにお迎えしました。
前編ではRABO社のこれまでの歩みについて、後編では大型調達の背景と今後の展望について伺っていきます。
今回、収録はZoomで行っていて伊豫さんの頭の上に猫が乗った画像が表示されているのですが、これは伊豫氏の「様式美」とのことです。自分もあまり気にせず自然体で話していきたいと思います。それでは伊豫さん、簡単な自己紹介をお願いします。
伊豫:株式会社RABOの代表を務める伊豫です。私たちは「Catlog(キャトログ)」という猫様専用のIoTサービスを展開しています。首輪型の「Catlog Pendant(ペンダント)」と、トイレの下に敷いて体重や排泄管理をする「Catlog Board(ボード)」という2つのデバイスと1つのアプリで構成されるサービスです。よろしくお願いします。
手嶋:早速ですが、プロダクト名の「Catlog」ではなく「RABO」を社名にしたのはなぜでしょうか?
伊豫:「Catlog」という名前が決まったのは、実はクラウドファンディングの直前でした。社名を検討する中で、「RABO」という言葉がスペイン語で「尻尾(しっぽ)」を意味することに着目しました。猫の尻尾はセンサーのような働きをしているため、「動物のセンシング」を手掛ける会社として意味が通じます。
加えて、私自身が研究者出身であることから、「研究(Labo)を社会実装する」という意味も込められています。この二重の意味から「RABO」という社名に決定しました。
手嶋:「Catlog」を社名にしようと思ったことはなかったのですか?
伊豫: 今後Catlog以外のプロジェクトが生まれる可能性も考慮し、現時点では社名とプロダクト名は分けています。
手嶋:RABOという社名、私も気に入っています。
構想から半年で「これは行ける」と確信
手嶋: RABO社は2018年の創業ですが、起業を具体的に決めたのはいつ頃ですか?
伊豫: 法人登記しようと決めたのは、登記日(2018年2月22日、猫の日)の半年前です。
プロダクトの構想自体は、創業の1年半〜2年ほど前からありました。当時、別のスタートアップを退職するタイミングで温めていた構想を世に出せるのではないかと考え、真剣に市場調査や飼い主さんへのインタビューを行いました。その上で事業性を確認し、「よし、法人登記しよう」と半年前に起業を決断した形です。
手嶋: 伊豫さんはスタートアップでの勤務経験もあり、業界の情報はお持ちだったと思います。しかし「Catlog」はハードウェアであり、単なるWebサービスとは異なります。起業を決めた当初、どのあたりが難しそうだと感じていましたか?
伊豫: 一番はハードウェアです。私自身、ハードウェアを作ったことも、はんだ付けの経験すらありませんでした。有形物を作るケイパビリティが全くなかったので、「本当にできるのか?」というのが最大の不安でした。
「やるか、やらないかじゃない。やるんだ」起業の覚悟
手嶋:「本当にできるのか」という不安がありながらも、起業を決断できたきっかけは何だったのでしょうか。
伊豫: 私はこれまで、「やる」と決めたことをやらなかったことがありません。弊社のバリューにもなっている『スター・ウォーズ』のマスター・ヨーダの言葉「Do or Do not. There is no try.(やるか、やらぬかだ。試しなどない)」が好きなのですが、「やる」と決めたからには、タイムマシンを作るような話でない限りは実現できるはずだと考えました。
理屈としてできるはずだからやってみよう、最悪どうにかなるだろう、というある種の達観した気持ちでしたね。
手嶋: 伊豫さんはもともとバイオロギング(生物に小型センサーを装着して行動を記録する研究手法)を研究されていました。会社を登記した時点での「Catlog」事業は、どのような状態だったのですか?
伊豫:「家の中の猫様の様子を見守るプロダクト」という点に振り切って、プロダクト作りを進めている段階でした。
手嶋: プロダクトはすでに形になっていたのですか?
伊豫: バイオロギングの知見があったため、どんなセンサーが必要で、そこからどんなデータが取得できるかというイメージはありました。猫様の行動を分類するために、どんなプロダクトが必要かというイメージ、つまり私が描いた絵や概念図だけがある状態でした。
登記時は「概念図」だけ。ゼロからのチームビルディング
手嶋: 登記時点では伊豫さんお一人だったとのことですが、ハードウェアもウェブサービスも、さらに機械学習も必要な複雑なプロダクトです。登記後、どのような順番で、どのように人を集めてプロダクトを形にしていったのですか?
伊豫: おそらく、すべて並行して進めていました。
まず、センサーデータから行動を分類する技術(バイオロギング)は海洋動物が中心だったため、これを家猫に応用できるかという蓋然性を確認する必要がありました。研究時代の恩師の元へ話しに行き、その場でセンサーを借りて、愛猫の首にくくりつけてデータを取ることから始めました。
並行して、プロダクトのコンセプトや体験設計については、デザイナーの知人に起業を決めたその日くらいに話しに行き、手伝ってもらい始めました。
さらに並行して、ハードウェア開発の知識が全くなかったので、Facebookでハードウェアに詳しそうな友人・知人に片っ端から連絡し、「どの本を読めばいいか」「どこに行けばいいか」を聞きまくりました。この3つの軸で進めていましたね。
手嶋: 行動すればするほど、その大変さもわかってきたのではないでしょうか。
伊豫: 登記直前の2018年2月半ばに、夫から「本当に一人会社にしていいの?今の状態(概念図のみ)で会社を作って、本当にできるのか?」と問われたことを明確に覚えています。
手嶋: 伊豫さんの旦那さんもスタートアップ業界に精通している方なので、状況を理解した上での、愛あるサジェスチョンですね。
伊豫: それに対し、私は「やるしかないでしょう」と答えました。「起業とは、コトを起こすことだ。できるかできないかの議論の前に、やるって決めてやるのが起業なんだ」と。
手嶋: そこまで覚悟が決まっているなら、と。
粘土で試作、データ収集。多忙を極めた1年半
手嶋:2018年2月に登記して、初号機のリリースはいつでしたか?
伊豫:2019年の9月末です。1年半かかりましたね。
手嶋:登記からプロダクトリリースまで1年半。その間はどのような期間でしたか?
伊豫:リリースの半年前(2019年春頃)にクラウドファンディングでお披露目をしました。創業してすぐの頃は、先ほどの3軸(ハードウェア、機械学習、ソフトウェア)の設計をすべて並行して進めていました。
最初は本当に何もなかったので、センサーを借りてデータを取る傍ら、東急ハンズや100円ショップで粘土を買ってきて、イメージするデバイスの形を粘土で作りました。それを愛猫の首に取り付けて、重さや大きさ、生活への支障がないかなどを検証していました。
大きさが固まってきた段階で、製造を委託できる先を探し、設計のアドバイスをいただきながら開発を進めました。機械学習の部分は、2019年9月のリリース時も「このクオリティと精度で本当に出せるのか」とギリギリまで調整していました。
手嶋:リリースは予定通りだったのですか?
伊豫: 1ヶ月遅れました。クラウドファンディングでは8月中とお伝えしていましたが、1ヶ月遅らせていただくご連絡をしました。
手嶋: それは主に機械学習の調整で?
伊豫: そうですね。それと、ハードウェアの初期設定(Wi-Fi接続など)のつなぎ込み、そして機械学習の部分が、最後までかかりました。ソフトウェア(アプリ)に関しては、チームもケーパビリティが高かったので、それほど心配していませんでした。
手嶋:2019年9月にリリースした時の手応えはいかがでしたか?
伊豫: クラウドファンディングをオープンした時の反響は予想以上でした。目標金額(資金調達目的ではなかったため低めに設定)は1時間ほどで達成し、多くのメディアにも取り上げていただきました。
何より嬉しかったのは、応援コメントです。「なぜこれを買ってくれたか」という理由の中に、私たちが仮説として持っていた「家の中の猫の様子を気にしている飼い主さんはたくさんいるはずだ」という仮説を裏付けるようなコメントが大量に寄せられ、「私たちの仮説は合っていたんだ」という強い感触を得られました。
リリース後に直面した「猫の癖」という壁
手嶋: 当時(2年半前)の初号機は、今と比べてどのようなコンディションでしたか?
伊豫: 行動分類の項目が、今より2項目(水飲み、毛づくろい)ほど少なかったです。食事や水飲み(当時)の回数など、ミニマムな機能だけでした。また、判定の精度も、データがほぼ愛猫(ブリ丸)のものしかない状態でリリースしました。
手嶋: ほぼブリ丸のデータに依存していたわけですね。
伊豫: はい。ブリ丸のご飯を食べる「癖」が、他の猫さんには適用されない、といったことがリリース後に次々とわかりました。そこから慌てて精度の改善を進めました。これは今も継続して取り組んでいる最大のテーマです。
手嶋: そこから精度を上げつつ、2つ目のプロダクト「Catlog Board」をリリースされました。これはどのようなサービスですか?
伊豫: 猫様がいつも使っているトイレの下に敷くボード型のデバイスです。トイレに入った時に体重を計測したり、おしっこやうんちをしたら、その量やトイレの滞在時間を記録してお知らせします。
手嶋:1つのプロダクトでも大変なのに、比較的早い時期に2つ目の開発を決断されています。
伊豫: 実は、創業直後から「猫様の行動や健康の記録をすべて取れるもの」という構想は持っていました。その中でPendant(首輪型)から始めたのは、こちらの方がより難易度が高いだろうと考えたからです。
Board(トイレ型)は、人間の体重計のように分かりやすく、猫が泌尿器系の疾患にかかりやすいことも多くの飼い主さんが知っているため、イメージがしやすい製品です。
市場を切り開いていく役割を持つPendantを先に出し、落ち着いたタイミングでBoardの開発を本格化させました。Boardの開発自体は1年ほどかかっていますが、Catlog(Pendant)をリリースした直後くらいから並行して進めていました。
手嶋: 伊豫さんの中では、当初からこの2つがあって当たり前という世界観だったのですね。
伊豫: そうですね。Boardに関しては、すでに競合的なIoTトイレ製品も世の中に出ていましたし、既存製品よりも優位性が出せるポイントもいくつか見えていました。「Catlogシリーズ」全体を早く世の中に出していくことが重要だと考えて進めました。
RABOが目指す「生活記録を基にした医療」
手嶋: 「Catlog」と「Catlog Board」は、どのような価値を発揮しているのでしょうか?
伊豫: 私たちが解決したい最大の課題は、猫様の健康や体調に何らかの不安を抱えている飼い主さんのペインです。
病気の診断を受けていたり、先天的な疾患の可能性を指摘されていたりして、健康意識がもともと高い飼い主さんたちです。
獣医さんから「おしっこの回数を気にしてください」と言われても、一日中家にいて回数をカウントし、量を測るのは不可能です。
そういった健康に関する記録や管理を、飼い主さんの手間をかけずに自動的に行うこと。これが最大の提供価値です。
手嶋: その方向性の中で、プロダクトを進化させていくのが現在の大きな流れですか?
伊豫: はい。人間の世界でも予防医療が進化していますが、生活ログから見えてくる部分はまだ多くありません。
一方で「Catlog」は、24時間365日、飼い主さんも把握していない猫様の状態やデータを取得し続けています。
私たちはこれを「Live Log Based Medicine(生活記録を基にした医療)」と呼んでいるのですが、まさにその領域にチャレンジしているところです。
「地の果てまで追いかける」採用力
手嶋: 伊豫さんの最大の強みは「巻き込み力」、特に「採用力」だと感じています。私自身、投資家としてオンラインでプレゼンを受けた瞬間に「やります」と即答したくらい訴求力が高かった。それ以上に、RABOには「いわゆるスタートアップには来ないだろう」というような、ものすごい方々が集まっています。
ユニークな事業であることはもちろんですが、どうやってクロージングしているのですか?
伊豫: 「地の果てまで追いかけます」ね。
手嶋: 嫌われないですか(笑)?
伊豫: そういう側面も一種あるかもしれませんが(笑)。
本当に「この人だ」と思った方には、RABOという会社と「Catlog」というプロダクトを伸ばしてくれる明確なイメージが私の中にあるので、「なぜそう思ったか」「今後の事業展開」なども含めて、「あなたが必要だ」ということを、手を変え品を変え、伝え続けます。
最初から「私は諦めない。地の果てまで追う覚悟なので、あなたも覚悟してくださいね」と半分冗談で伝えながら進めています。
手嶋: 客観的に見ると、採用後の活躍イメージの解像度が非常に高いのかもしれませんね。
伊豫: それもありますし、私との相性もあると思います。「この人(伊豫)おもろいな」と思ってもらえたら、こっちのものだと(笑)。
その人にとって「おもろい仕事」は何かを考え抜き、「うちなら、あなたが『おもろい』と思う仕事、提供できますよ」とひたすら言い続けます。
ハードウェアの内製化へ。さらなる体制強化
手嶋: 今後もすごい方々が入社予定と聞いています。化学反応が楽しみですね。先ほど出た「内製化」とは、どの範囲を指していますか?
伊豫: これまでは、3D CADを使ったデザイン設計や機構設計などは、私たちが仕様を決めてディレクションし、外部にお願いしていました。
しかし、私たちが一番「Catlog」と猫様のことをわかっているはずです。企画、ディレクション、そして少なくとも機構設計くらいまでは中でできた方が、より良いプロダクトになるだろうと考え、ハードウェアも徐々にインハウス(内製)化を進めています。
手嶋: なるほど。前半はRABOのこれまでの歩みを、プロダクト開発の側面から伺いました。後半は、先日発表された大型資金調達を経て、これから「何をやっていくか」という未来の話を伺いたいと思います。
伊豫さん、前半ありがとうございました。
伊豫: ありがとうございました。
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