#11 エレベーター広告事業で急成長を遂げる東京、起業のきっかけと三菱地所との提携の裏側ー 東京 羅 悠鴻氏

「スタートアップ オフレコ対談」は、XTech Venturesの代表手嶋とゲストの方をお呼びして対談する番組です。今回はエレベーター広告事業を展開する株式会社東京の急成長の裏側、代表・羅さんの巨大な将来構想について聞きました。
学生時代にどのように事業を構想し実行に移していったのか、軌道に乗るまでにどのような壁にぶつかったのか、リアルに語っていただいています。学生起業、売り上げゼロのスタートアップが、三菱地所と合弁会社を設立し、エレベーター広告事業で急激に成長しているという、前例のないエピソードは必読です。
スピーカー
・羅 悠鴻氏(@luo_tokyo)
東京 代表取締役
・手嶋 浩己(@tessy11)
XTech Ventures代表パートナー
目次
# 羅氏の学生時代、起業のきっかけ
# エレベーター広告事業に至った経緯と、不動産の開拓
# エンジェルラウンドの資金調達エピソード
# VCを含む資金調達から三菱地所との提携、事業の飛躍期
※記事の内容は2021年11月時点のものです。
# 羅氏の学生時代、起業のきっかけ
手嶋:一般的に役に立つ話をしようと、これまで意図的に投資先の人には出てきていただいてなかったんですけども。今回は、初めて投資先の社長をゲストに迎えます。「こういう起業家もいるんだな」と、面白い話が聞けると思います。
エレベーター広告を展開している株式会社東京の羅 悠鴻さんです。結構大変なプロセスでここまで来ているので、前半は今までの話を、後半は未来の話や、海外の状況を聞いていきたいと思います。Xtech Venturesの1号ファンドの投資先ですけども、羅さんから簡単に自己紹介していただいていいですか?
羅:株式会社東京の羅と言います。エレベーター広告事業を行っています。一口に言うと、タクシーに乗ると目の前に映し出されるタクシー広告のエレベーター版ですね。2019年3月に、Xtech Venturesさんから投資をしていただいてます。
手嶋:投資先との距離感っていろいろあると思うんですけど、表に出ていないことも含めてかなり動きが激しい会社なので、密着したやり取りをさせてもらっています。驚かされることも多い投資先の1社です。創業は2017年でしたっけ?
羅:そうですね。2017年2月です。
手嶋:創業のきっかけはどんな感じだったんですか?
羅:もともと学者家庭で育ったので、本当は研究者になろうと思っていたんです。けど、大学院に入ってみて「アカデミアって100年先のことをやるんだな」と知って、ちょっと違うなと思いまして。なので、友人と一緒に就活やろうぜと、メリルリンチとか外資系の金融機関を回ってみたら結構楽しくて。ただ、インターンに行くと、そういう世界ってもう全然寝られないんですよ。
手嶋:寝られない。
羅:はい。2泊3日のプレゼン合宿で、めちゃくちゃ働くので、インターンなのに2時間睡眠なんですよね。で、僕は寝られないのやだなと思って、それなら会社を作ろうかと考えて立ち上げました。だから志は低いです。
手嶋:要するに、自分のペースで仕事をしたいと。
羅:そうですね。8時間の睡眠が確保できない働き方はいやだなと。
手嶋:ちなみに今は8時間寝られてるんですか?
羅:いや、寝られない日もあります。でも寝たいときに寝られるので。
手嶋:自分で仕事のペースをコントロールできますもんね。2017年、東大大学院1年のときに会社を作ったんですけど、まず会社を作りたい、起業しようというのが先にあって、ネタを探し始めたって感じですか?
羅:そうです。
手嶋:ネタが見つかってから登記したんですか?
羅:起業と同時にいくつかネタは持っていたので。考えるのが好きだったんですよね。実は、大学3年生のときにビジコンに出ていて。
手嶋:別に揶揄する表現ではないんですけど、当時は意識の高い大学生だったんですか?外資系企業でインターンしてみたりとか、ビジコンに出たりとか。
羅:ビジコンはそのときだけですし、若手起業家の中では意識が相当低いほうだったと思います。逆にラクロスやってたり、チャリに乗ったり歌ったりしていたので、大学生活では。
手嶋:アカペラサークルの話はよく聞いたことありますが、ラクロスもやってたんですか?
羅:大学1年生のときはラクロスをやってましたね。
手嶋:やめちゃったんですね。
羅:それもやっぱり休みがなかったので……。
手嶋:(笑)。少しのんびりしたいという欲求があるんですね。
羅:そうですね。というか、自分で自分の時間をコントロールしたいじゃないですか。
手嶋:なるほどね。根っこがそこにあるんですね。そういう意味だと、起業は自分で運命を切り拓くものなので、自分次第なところがありますよね。起業前に何してたかをもう少し深掘りすると、東大の理科一類に入って、ラクロスを。最初は体育会系でやるぞって感じだったんですか?
羅:そうですね。僕の名字が「ラ」なので、新歓でラクロス部に行って、「羅っていうの?もうここに入るしかないよ」と勧誘されて。
手嶋:くだらない(笑)。
羅:僕、そういうノリが好きなので入っちゃって。
手嶋:それで、休みが取れなくて1年で辞めて。
羅:はい。年に3日しか休みがないので。
手嶋:体育会系の中では多分十分なことなんでしょうけどね。アカペラサークルには2年から入ったんですか?
羅:自転車とアカペラサークルに同時に入って、3年間やっていました。
手嶋:そのアカペラと自転車は、起業に繋がるストーリーとして出てきますよね。最初の創業時に誘ったのが、アカペラサークルの友達だったんですよね。
羅:そうです。アカペラサークルの友達と大学1年生のときの語学のクラスメイトとですね。
手嶋:最初は何人で始めたんですか?
羅:3人ですね。
手嶋:それはもう、エレベーター広告をやろうと自分の中で思って誘った?
羅:そうです。1人はデザイナーで、アカペラサークル同期の新谷っていうんですけど。当時デジタルなことをやろうとは全く思ってなかったので、エレベーターの中で貼り紙の広告を出そうとしていたんです。アルプスの写真を貼って、ウォーターサーバーの広告を出すみたいな。でも、僕はデザインができなかったので彼を誘いました。
# エレベーター広告事業に至った経緯と、不動産の開拓
手嶋:そもそも、外資系は寝られないから起業しようと決めて、エレベーター広告事業をやろうというのは飛躍があると思うんですけど。どれぐらい考えて決めたんですか?
羅:あんまり考えてませんでした(笑)。ビジコンに出てたときに、今で言うUbieのような、問診票のデジタル化サービスをやっていて。風邪をひいて病院に行くと、医師からの最初の質問ってだいたい一緒じゃないですか。それなら機械でできるなと思って。医師の時給は高いですし、問診の時間が1/3にカットできたら結構いいじゃんと。
それとエレベーター広告と2つの事業プランがあって、自分の中で。問診票サービスは1回やってみて挫折していたのと、医療の世界がよくわからんということで、それでエレベーター広告の事業を選んだという、それくらい軽いノリでした。
手嶋:会社を作って、人を誘って、みんな大学生だからそんな深く考えずに「面白そうじゃん」って感じで乗ってくれたんですか?最初は。
羅:そうですね。新谷はわりとそんな感じで、あとは見かねて入ってくれるケースが多くて、うちの会社は。
手嶋:「大変そうだね」みたいな感じ?
羅:そうです。「こいつはやばいから、俺が手伝わないと死にそうだな」みたいな。
手嶋:みんな結果的に就職せずに東京にジョインしてくれたメンバーが多いですが、当時は別に就職活動をやめてまで入ろうとかって感じではなかったんですよね?
羅:ですね。そのプロジェクトを手伝うか、ぐらいの感じですね。
手嶋:そんな感じで、エレベーター広告に目をつけて会社を作って、全く未経験の大学生が何人か集まったところから、そこそこ立ち上がってきた現在の状況に至るまでいくつかステップがあったと思います。1ステップ目は何をやったんですか?
羅:とりあえず、僕らは不動産と広告と両方に営業しないといけないじゃないですか。どちらを先にするべきかわかっていなかったんですが、普通に考えたら、お金を出すのに広告を設置する元がないのはおかしいなと気づいて。最初は不動産の開拓をしました。
不動産業界について詳しくなかったものの、ビルオーナーが存在することはなんとなく知っていました。今までの人生で会ったことはないけど、物があるならそのオーナーがいるはずだと。あと大きいビルなどはデベロッパーがオーナーなので、そこら辺には会いづらいんだろうなみたいなのもわかっていたんですよ。そこで、小さな雑居ビルのオーナーがたくさんいそうな街って銀座かなと。
手嶋:クラブの密集地とかそういうイメージですか?
羅:そうです。で、それぞれのビルに行ってピンポンしまくるみたいな。「このエレベーターを貸してください」とお願いすることを始めましたね。
手嶋:会社登記して「よっしゃ!俺らでエレベーター広告をやろう」ってホワイトボードとかに書いて盛り上がって、「とりあえず不動産だ!翌日行ってみよう!」って銀座に行ってピンポンしまくる。それぐらいのノリだった。
羅:もはや会社すら登記していないですし、そもそもメンバーに相談もしていなかったです。
手嶋:じゃあ、1人で行ったの?銀座に。
羅:そうです。
手嶋:なるほど。で、どうだったんですか?ウェルカムムードでしたか?
羅:まず、「名刺とかないの?」って聞かれて。なかったので学生証を出しました。意外と反応は悪くなくて、「なんか面白い人来た」みたいな。ちゃんと話してくれたのが1日5人ぐらい。
手嶋:え、ピンポンして、ビルオーナーに会えたんですか?ビルオーナーがそこにいるかどうかってわからなくないですか。
羅:僕、そこは立てた仮説がするどくて。銀座のビルって、やっぱりビルオーナーがだいたい最上階に住んでいるんですよ。
手嶋:そうなんだ。
羅:昔お店をやっていて土地を持っていた人が、最上階に住む現象があるみたいなんですよ。ビルにエステやらクラブやらが入っている中で、最上階だけ人の名前が書いてある。そこへ行くとだいたい高齢の方が出てきてくれるので、「エレベーター広告をやりたいんです」と話して。
あるとき、河北新報社という宮城県本社の新聞社の東京支店に行ったら「いいよ」と言ってくれて。話が盛り上がって「これは来たなあ」と思ったんですけど、そのビルを半月後に取り壊すと。「それまでに何かできる?」と聞かれて。「2週間で広告を見つけてくるのはちょっと無理な気がします」と、挫折しました。
手嶋:当時はポスター広告を貼る事業を想定していて、だからデジタルの機器とかはいらないわけですよね。でも無理そうだと一旦諦めた。それで、そういった活動をゲリラ的にやりながら会社を登記して、人が集まる頃にはどういう状態になっていたんですか?
羅:そもそも、コウさんというエンジェル投資家に入ってもらっていて、不動産仲介会社の社長さんなんですけど。お会いできたのがきっかけで会社の登記をしました。
手嶋:ああ、じゃあそれまでは本当に会社を作るかどうか悩みながら動いていたんですね。ただ、いろいろ動いたらコウさんと出会って、「会社作っちゃいなよ」って言われたと。
羅:そうです。「面白いじゃん、手伝うよ」と言ってくれて。僕にとって、初めて会うしっかりとした大人だったんすよね、コウさんは。かつ、いろいろな方を紹介してくれて。この人に協力していただけたらできる気がすると思って、会社を作った感じです。
手嶋:そのコウさんとはどうやって出会ったんですか?
羅:Facebookメッセンジャーで突撃をして。
手嶋:どういうロジックでスクリーニングして、どのように連絡したんですか。
羅:最初は交流会に参加していたんですが、その場には投資用マンションの営業しかいなかったので、あまり意味がないなと。次にテレアポという手法が世の中にあるらしいので、自分で電話してみたんです。でもテレアポってすごく断られるじゃないですか。今考えると当たり前なんですけど、断られると僕もメンタルが弱いので、へこんでしまって。10件ぐらいでもうダメでしたね。
手嶋:挫折してしまったんですね、テレアポに。
羅:そうです。でも、Facebookメッセンジャーだったら心が痛まないぞと思って。当時はFacebookで職業検索ができたので、それでネットサーフィンをひたすら2〜3日やっていました。
そのときに発見した法則が、不動産会社の一般社員っぽい方は、だいたい8割が同じレイヤーの人、2割が役職がついていそうな人とつながっていると。今度は課長たちのプロフィールを見ていくと、友達の8割はマネジメントレイヤーで2割が部長や執行役員クラス。部長クラスの友達の8割はまた同じレイヤーで、2割が社長だと。最後に社長をたどると、8割が同じく社長クラスの方々だったんです。だから社長までたどれると、経営者の方とアクセスできる。
不動産業界はだいたいみんな知り合い同士なので、片っ端から不動産会社の社長さんにDMしまくっていました。それで、唯一コウさんだけが反応をくれたんです。
手嶋:コウさんというのは、不動産業界で活躍されて業界に精通されている方ですね。最初のインベスターにもなってくれたんですか?
羅:最初はまだ投資の段階ではなかったので「会社作りなよ」と言ってくれて。
手嶋:自己資金でまず作って、資本金は10万円とかそういう感じだったんでしょうか。そこからコウさんとつながって。当初はポスターを貼るというところから、現在はデバイスを作ってそこでCMを配信してますよね。移行をしたのはいつなんですか?
羅:ちょうど会社を作る直前ぐらいだったと思います。ポスター広告を貼るのに、営業を飛び込みでやってみたんですね。そしたら、広告主は1週間くらいのスパンで入りたがるということがわかって。
ポスター貼ったり設計したりするのに1週間かかるのに、それを1週間で変えられてしまったら、たまったもんじゃないなと思って。なので、バス停にあるようなデジタル広告をやろうと自分で設計してみたものの、僕は理学部出身ですが工学的な知識が全くないんですよ。
わからんなと思ったときに、熊谷という現在のCTOが大学の友達にいて、彼がANAのビジコンか何かに出ていた。スマホにプリズムカメラをつけて360度撮れるTHETAのようなものを作っていたので、「そのからくりの作り方教えてよ」と話しかけたのが移行のきっかけです。
手嶋:相談をしてみて、今の形に近づいていった。
羅:そうです。熊谷が、「アナログでやるのは大変だから、タブレットでアプリを作ってやればいいじゃん」と言われたんです。なるほど、アプリかと思って。僕にそういう考えは全くなかったので、作れるか聞いたら作れると。じゃあ、よろしくみたいな。それが熊谷のジョインのタイミングでもありますね。
手嶋:大学生が集まって物を作ったり、突撃していったりしながら、ちょっとずつエレベーター広告の設置は進んでいったんですか?
羅:全く進みませんでした。
手嶋:どうして進まなかったんですか?
羅:設置までこぎつけかけた物件とかもあったんですけど、当時の一番大きいハードルがエレベーター保守会社だったんですよ。
手嶋:あ、ビルオーナーじゃなかったってこと?
羅:エレベーターって特殊で、エレベーターを保守する専門の会社があるんですね。今だからわかることなんですが、エレベーターの保守会社はとても儲かるんです。解約すると人の命に関わる、かつ、寡占マーケットなので。
手嶋:東芝さんの会社を3分割するのが話題になっていましたが、そのうち1つの会社の主要事業はエレベーターですもんね。それぐらいドル箱ってことですよね。
羅:三菱電機で、一番景気が悪かった時期の純利益の97%は、エレベーター保守事業で稼ぎ出しているとも言われていました。
手嶋:世の中の人たちはあまり知らない事実だよね。
羅:彼らは逆に言うとベンダーロックというか、もうブラックボックスにすることで保守を絶対自分たちにしかできない仕組みにして稼ぐというビジネスなので、他の会社が入ってくるのを非常に嫌がるんですね。
ビルオーナーさんがOKと言っても、広告を貼ると保守できないと言われてしまうんです。これは難しいなと思って、エレベーター保守会社さんとも提携させていただきました。
# エンジェルラウンドの資金調達エピソード
手嶋:エレベーター保守会社をはじめ、ビジネスの仕組みを理解してきてルートを作っていたんですね。メンバーは大半が東大生。普通に就職したら有名企業に行く可能性があったと思うんだけど、どうやって正式にジョインしてもらったんですか?さっき話に出た熊谷CTOとか。
羅:おそらくシードの調達が大きいかなと思っていて。
手嶋:時系列でいくと、まず先に資金調達をしたんですね。それもあれですか、またFacebookメッセンジャーで突撃したんですか?
羅:それは、お世話になっていたコウさんからの紹介が多くて。それから不動産の大御所のショウさんという方もいて、その方々が投資してもいいよと会うたびに言っていただいていたんです。
手嶋:まず、不動産の有識者の方々、ITスタートアップにがんがんエンジェル投資する層ではない人たちが面白がってくれて、まず出してくれる感じになったと。それだけですか、最初の調達は?
羅:そうですね。当時は資金調達をよくわかっていなかったので。
手嶋:最近だと、大学生でもすごく物知りな人が多いじゃないですか。起業するときに上場するまでの資本政策をちゃんと語れる人とかもいる中で、あまり詳しくなかったんですか?
羅:僕はそういったスタートアップの仕組みについては詳しくなかったんですけど、外銀でインターンや就活を行っていたので、B/Sはなんとなく理解していたんですよ。たとえば、資金調達コストという概念は謎に理解していたんですよね。エクイティは資金調達コストが高い手段だから、まずはデットを引こうと考えていました。
手嶋:デットは引けたんですか?
羅:はい。2000万円を奇跡的に引けて。投資家の方々も、フワッと「してもいいよ」ぐらいの感じだったので。投資をいただいた直接のきっかけは、Skyland Venturesの木下さん。
手嶋:木下さんは突然登場しましたが、キーマンなんですか?株主ではないですよね。
羅:木下さんが、東大生を応援してくれていた時期があって。「東大生なら起業しろ」と言っていて。木下さんにピッチしに行ったことがあるんです。
手嶋:Twitterを見て、「VCの人だ」と。
羅:VCって何だろうみたいな感じで、恐る恐る相談に行きました。僕のプレゼンには200回ぐらい「エレベーター」という言葉が出てくるんですけど、その単語を発する前に「東大の院生です」と言ったら、「よし、投資する」って言われて。
手嶋:(笑)
羅:いや、ちょっと待って、一旦話を聞いてもらっていいですか?みたいな。資料をカバンから出す前の出来事でした。その後、一応ピッチも聞いていただいて、アンリさんのところにも行ったんですね。そこでも「木下さんから話を聞いてるよ」と。やばい社名だと話が回っていたみたいで。
手嶋:株式会社東京ね。
羅:資金調達を本当にすべきかがわからなかったので行ってみたんですけど。
手嶋:意外とそこは慎重になっていたんですね。
羅:そうですね。その後、木下さんから早稲田の起業家講座で、受講生が集まる懇親会があるからおいでと誘ってもらって。その2次会が金さんのCandleマフィアの人たちと僕みたいな感じのメンバーで。そこで小澤さんとか、当時コインチェックの取締役だった大塚さんとか綾太郎さんとかがいらっしゃって、そこの会に参加したのが投資をしていただいたきっかけです。
手嶋:おざーんさん、現在ZホールディングスのNo.2の小澤さんとユーザーローカル代表の伊藤将雄さんに投資してもらったと。VCではなくてエンジェル投資家に入ってもらったんですね。そのときはきちんと納得感があったんですか?木下さんからも投資のオファーをもらっていたわけですが。
羅:その会の帰り道に「投資してもいいよ」と言っていただいて。ものすごく失礼な話なんですけど、僕はおざーんさんを知らなかったんですね。でもヤフーショッピングを当時やっていた。サイトのデザインださいなあと。
一方で、コインチェックと「みん就(みんなの就職活動日記)」のユーザーでもあったので、大塚さんと伊藤さんはすごい人だなと。おざーんさんは、ヤフーショッピングをやってる人、なるほどみたいな。綾太郎さんは本当に誰かわからなかった。綾太郎さんってTシャツ短パン姿で登場するので、もはや学生側なのか見分けがつかなくて。謎に質問めっちゃ鋭いやん、誰この人!?みたいな。
手嶋:何の人なんだろうと。でも結果、おざーんさんや伊藤さんに、エンジェル投資をしてもらったと。それがきっかけで、みんなが就職せずに残ってくれたんですか?
羅:そうですね。それで「俺たちすごいんじゃね」と盛り上がって。
手嶋:調べたらおざーんさんもすごい人で、そんな人から投資を受けたの?というムードになったと。
羅:そうです。その後ちょうどNewsPicksでおざーんさんの半生を語る特集記事が出ていて。「この人めっちゃすごくね?」と。投資は断ろうと思っていたんですけど、お願いしようという話になりました。
手嶋:おざーんさんに投資いただいた後、自宅前で待ち構えて、出勤に同伴しながらアドバイスもらったりしてたんでしょ?
羅:していたというか、今でもそうですね。
手嶋:どういうプレースタイルなんですか?
羅:投資していただいた当時は、おざーんさんも忙しい方ですけど、ヤフーの食堂でランチするぐらいは時間を取っていただけた。でもZホールディングス全体で一時期、LINEとの経営統合とZOZO買収とPayPayモール立ち上げを同時並行でやっていたんですね。
手嶋:仕込んでいた最中は我々が知る由もないので、今思い返すとその時期だったってことですよね。
羅:ですね。で、忙しくて首も回らないという状況になっていて。「でもお会いしたいです」とお話ししたら、ちゃんと時間を取ってくれるんです。「朝8時に自宅の前に来い」と言われて、自宅の前で待ち構えて「おはようございます」と声をかけて、そこからヤフーまでご同伴する30分間でアドバイスをくれました。
# VCを含む資金調達から三菱地所との提携、事業の飛躍期
手嶋:その後、先ほど話題に出たエレベーター保守会社と接点を持ったり、トラブルが発生したりしつつ、そろそろ次の調達をしなきゃというムードになっていた時期に、僕と羅くんが出会った。XTech Venturesを設立した直後ぐらいに、いよいよ調達したいとのことでしたが、当時はVCを回ってたんですか?2018年の暮れぐらいだと思いますが。
羅:回っていましたね。
手嶋:その頃は、設置台数もほぼなくて売り上げゼロ。VCの方々はどんな反応だったの?
羅:面白がってはくれるんですが、ネクストアクションに全然つながらないなと。だから、やんわりと断られていたんですけど、それに気づいていなくて。
手嶋:とはいえ、1.2億円。当時、学生起業家で売り上げゼロのベンチャーにしてはそれなりのバリュエーションで集めましたと。XTech Venturesとイーストベンチャーズと、既存のエンジェル投資家も追加で出してくれたんですよね。
僕とはTechCrunchのイベントで出会って以来、追跡されて、激しく連絡をいただいて、検討していたので。そこから今、エレベーター広告がそこそこ軌道に乗ってるじゃないですか。かなり飛躍しましたよね。調達したのが2019年で、この2年半の間に、何が大変でどんなことが起こりましたか?
羅:やっぱり、広告が売れる物件、収益可能な物件に設置するのが僕らのビジネスの肝なんですよね。PMFしている認識はまだないんですけど、ある程度そこがハマれば結果がついてくるのだと手ごたえを感じました。そのフェーズに到達するまでが結構遠かったですね。
手嶋:どうやって実現していったんですか?
羅:そもそも「どういう不動産に設置するか」というプランがなかったんですね。今僕らはREITのお客様が多いんですけど、彼らのペインを知るまでが結構遠かったですね。課題を知ってからは結構早かったなって感じです。
手嶋:課題は何なんですか?
羅:2018〜2019年当時は、今だとESG投資とか脱炭素が事業会社でも結構盛り上がってきていますが、REITでは一足先に盛り上がっていたんです。
ESGの文脈で何かしたいけど、不動産だと、ぶっちゃけやることがないんですよね。照明を電球からLEDに変えました、節電になりましたとか、そのくらいで。でも決算説明会資料で出し続けないといけないと。だから決算説明会資料でESGを語るスライドを作るのが課題だと。
手嶋:なるほど。何かネタが欲しいと。それが、エレベーター広告とどういう関係があるんですか?
羅:僕らの端末をつけると、広告だけではなくTV番組やCMのコンテンツが流れます。その番組で、ESGに資するような、たとえば「ここの場所で地震が起きたらここに避難してください」「AEDはここに置いてあります」というようなことをコンテンツとして流せるなと、ESGポイントが加点される仕組みができる。そこはめちゃくちゃ大きかったです。
手嶋:REITはたくさんの物件を持ってるので、1社に導入できればバーッと広がっていく構造になっていて。これって秘伝のタレみたいな話をしてますか。大丈夫ですか?
羅:おそらくもうシェアをひっくり返されることはないかなと思っていて。REIT全体の5割ぐらいとお付き合いをしているので、今から参入するのは厳しいと思います。
手嶋:そこは自信を持って語れる状況になってきてるという感じですね。その後に、三菱地所と接点を持たれたんですよね。合弁会社を作ってから出資もしてもらったという流れですかね。これは端的に言うと、エレベーター広告事業が軌道に乗る過程にどういう影響を与えたんですか?
羅:これは、広告が売れるようになったっていう意味でとてもありがたくて。REITで、中規模で広告の収益可能な物件にはほぼ設置ができていたんですね。
僕は最近「イチゴとショートケーキ理論」とよく自分で言っていて、今のOOHの方向性と少し逆行する話でもあるんですけど、OOHはブランドかなと思っていて。いかに想起させられるかどうかが勝負みたいなところがある。イチゴが乗っているショートケーキは皆さん買うじゃないですか。でもショートケーキのイチゴ抜きは買わないですよね。
イチゴが占める比重はショートケーキ全体では小さいけれど、イチゴが乗っていることで初めて買われる存在になるというか。僕らにとってのイチゴが、丸の内の物件だったんです。
手嶋:本丸ってことですね、オフィスビルの。
羅:丸の内の物件にも設置されている媒体として認知されて、ようやく広告販売ができた。
手嶋:一等地への設置にかなり尽力してくれてるっていう感じなんですかね。
羅:質の部分を担保してくれています。みんなが知ってるオフィスビルというか。
手嶋:それと、ビルオーナーよりもエレベーター保守会社を口説かなきゃいけない点でいくと、そもそも提携するのは大変だと思うんですけど、どうやってやってきたんですか?
羅:めちゃくちゃ大変です。うちはソニー前社長の出井さんに出資いただいてたりするんですけど、出井さんからご紹介いただいて、上から落とすみたいな形で攻めていきました。
ただ、話し合いの場は持てるけど、設置まで至らないというところで。それが三菱地所さんと合弁会社を作った裏の目的でもあるんですが、合弁会社を作ると「三菱地所グループ」と名刺に書けるんです。そうすると僕は、いちスタートアップの代表ではなく三菱地所の子会社の副社長としてエレベーター保守会社と交渉ができるようになる。
三菱地所ってエレベーター保守会社にとってはもう最大顧客なので、ちゃんとディスカッションをしてくれるようになりました。そこから、ビルオーナーさんにとっていいものだったら設置しましょうと、話が進んでいったんです。
なので、三菱地所さんと合弁会社を作ってなかったら、今でもエレベーターに広告を設置できていなかったと思います。
手嶋:三菱地所の方と羅さんと私でFastGrowで対談してたりもするので、ぜひ詳細は見ていただければなと。かなりレアな事例だと思います。
売り上げゼロのシードスタートアップが、三菱地所という日本の不動産の総本山みたいな会社と合弁会社を作って、しかも形だけではなくて、両社の連携によって完全に軌道に乗っていると。それなりの成長したスタートアップだったらなくもない話ですが、何年後かに語り継がれる事例になるんじゃないかなと思います。
羅:合弁会社を作ったときには、ここまで尽力いただけると思ってなかったです。
手嶋:ぶっちゃけ、合弁会社を設立した翌日に急に不安になってたよね(笑)。俺のところに急に訪問してきて。「昨日設立したばっかだよね?」と言ったんだけど、「うまくいかないかもしれません」って。いやいや、まだ1日目でしょと。
羅:当時は合弁会社を作ることだけを目標にしていたので、それを達成できて、さあ何をしようかと考えたときに急に弱気になりましたね。
前半はここまでです。後半は、日本と海外のOOH市場、「国家を作る」という羅氏の野望について伺っていますので是非ご覧ください。
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